風が、吹いた
何も持たないで出てしまったから、きっとあちこち大捜ししたのだろう。
大きく呼吸すると、沢木がひと息に叫ぶ。
「逮捕状が出た後の、森氏の上の娘がっ、行方不明になっているそうです!!」
嫌な予感が、した。
嘉納のためならば、俺は動かずに、周囲の動向を見守ったほうが、現段階では得策だ。
しかし。
―嘉納孝一が、守りたいものって、何なんですか?
開いた左の掌を、見つめた。
俺が、守りたいもの。
それは、ずっと前から。
そう。君に出逢ったあの時から。
ただ、ひとつだけ。
落ちてくる花びらを掴む時のように、掌をぎゅっと握り締めた。