風が、吹いた



ガコン



自販機から飲み物が落ちる音がする。




「はい、どーぞ」




加賀美から手渡された熱々のそれは。




「しるこ…?」




「何か文句でも?」




珍しくにっこり笑った顔は、きっと世界の何よりも恐ろしい。




「ありません…」




どうしてこの後輩、俺にいつも上から目線なんだろう―




いつも思っている疑問を、とりあえず横に置いて、椅子に座った。




続いて加賀美も正面に座る。




「暫くあんな感じなの?」



しるこな気分ではないけれど、真正面から向けられる強い眼差しに、仕方なくプルタブに指を掛ける。





「最初はあんなにひどくなかったんですけどね。元々実験は行ってましたし。」



東海林が恐る恐るしるこを飲む姿を確認して、口の端を吊り上げながら加賀美が答える。




「…う、甘…」




東海林は顔をしかめた。




「でも、どんどん没頭するようになって。私と同じくらいかそれ以上に飲まず食わずで籠もりっきりですよ。」




「けど、引越し、もうすぐだろ?準備とか大丈夫なのかな。」




ギブアップだ。内心リングで倒れる自分を想像しながら、東海林はしるこの缶をテーブルに置いた。




「準備は終わってるみたいですよ?最近は寝泊りも、ここだし。ただ、あのままじゃ、身体が持ちませんよ。東海林さん、先輩な上に、一応今上司でしょ。何とか言ってやってくださいよ。」




うーん、と首を捻りつつ、東海林は唸る。




「いいんじゃねぇ?仕事熱心なのはいいことだし、ここ、寝る場所もシャワーもあるしな。」




「東海林さん…」




たっぷり溜め息を吐いて、加賀美が笑う。




「アナタ馬鹿ですか?」




来年は、可愛い後輩と部下が欲しいなぁと思う東海林だった。
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