風が、吹いた
「…ずっとやってるんだけど…思い出すって難しいんだよ…」
ゆっくりと立ち上がりながら、呟いた。
加賀美と視線を合わさないまま、横を通り抜けようとすると、彼女がぽつり。
「逃げてるだけ、だからですよ」
「それ、どういう意味?」
横目で、自分より長身な加賀美を睨んだ。
「倉本さん、前はよくしていた事や、行っていた場所に、頑ななまでに離れていませんか?」
図星なだけに、言い返すことが出来ない。
「勿論、簡単な事とは思っていません。でも、今の倉本さんみたいに閉じこもってばかりでは、前進どころか、思い出す可能性すら見込めません。」
「…でも…、思い出したことが、、良くないことだったらと思うと…」
つい、本心が口をつく。