風が、吹いた



正直、病院に行くことを考えた時もあった。



けれど、生活に支障がない上に、記憶が抜けている部分が、ひどく限られていた。



それはつまり、忘れた方が良い記憶なんじゃないだろうか、



そのままにしておいた方がいいんじゃないか、そう思わせた。



だから、思い出すのが、怖かった。




「大丈夫。大切な記憶だから傷つけないように、閉じ込めてしまっただけです。」




そんな私の気持ちを見透かすように、加賀美は今度こそ優しく笑う。




「もう、出してあげて下さい。倉本さんなら、きっとできます。」




全てを知っているかのような彼女の口ぶりに、疑いよりも、安心を見出して、気づいたら頷いていた。
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