風が、吹いた
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雪と桜が混ざる河川敷。
さっきまで、私と見つめ合っていたはずの彼が、私の名前を叫んだのと同時に、立ち上がったかと思うと。
後ろから抱きかかえるように、私に覆い被さっていた。
生温かい滴が、宙を飛んで、手の甲にぱたりと落ちた。
彼の身体がぐらりと揺れて、少しだけ重みが掛かる。
私の目に映る、回された腕と手に伝った鮮血が、薄らと雪の積もる地面を染めていく。
ビュッと吹く風が、凍えるように冷たくて、寒い。
とても、寒い。
外気の冷たさが、
自分を抱き締めている相手の温度を、際立たせる。
―あぁ。
私。
この人を、知っている。
この香り。
この温度。
この息遣い。
私の全てが、
大好きなこのひとのことを、
ひとつ残らず、
覚えてる。
ぽろぽろ、と涙が、零れ落ちた。
「…椎名、先輩…」