風が、吹いた
薄く開いた目に、柔らかさを湛えながらも、息遣いは荒く、彼は掠れる声で呟く。
「千晶…名前を、、呼んで…。最後に……言ってくれた、、時、みたいに…」
そっと、震える手で、私の頬に触れる。
それを支えるように、自分の手を、重ねた。
「こ…いち…」
涙が、言葉に邪魔をするのを堪えながら、叫ぶ。
「孝一!」
嬉しそうに、彼は微笑んで。
とめどなく流れ落ちる私の涙を指先でそっと拭うと。
「…それだけで…今まで生きてこれたんだ…」
触れるその手が、力を、失った。
「待って!!!!」
反応を返さない彼の手を抱き締めて叫ぶ。
「…っお願い!行かないで!」
ひやりと冷たい貴方の手に、私の涙が落ちて散った。
あの時、言わなかったさよならを、
今、貴方が言うのなら。
私は、
あの時言えなかった、行かないでを言うの。
だから、
どうか、
お願い。
もう、何処にも行かないで。
私を、置いて行かないで。
独りぼっちに、しないで。
「お願いだから…」
しがみついてでも。
「行かないで…」
貴方の傍に、居たいの。