風が、吹いた

薄く開いた目に、柔らかさを湛えながらも、息遣いは荒く、彼は掠れる声で呟く。




「千晶…名前を、、呼んで…。最後に……言ってくれた、、時、みたいに…」




そっと、震える手で、私の頬に触れる。



それを支えるように、自分の手を、重ねた。




「こ…いち…」




涙が、言葉に邪魔をするのを堪えながら、叫ぶ。






「孝一!」






嬉しそうに、彼は微笑んで。




とめどなく流れ落ちる私の涙を指先でそっと拭うと。




「…それだけで…今まで生きてこれたんだ…」





触れるその手が、力を、失った。





「待って!!!!」




反応を返さない彼の手を抱き締めて叫ぶ。




「…っお願い!行かないで!」




ひやりと冷たい貴方の手に、私の涙が落ちて散った。



あの時、言わなかったさよならを、




今、貴方が言うのなら。




私は、




あの時言えなかった、行かないでを言うの。




だから、



どうか、



お願い。



もう、何処にも行かないで。



私を、置いて行かないで。


独りぼっちに、しないで。



「お願いだから…」




しがみついてでも。




「行かないで…」



貴方の傍に、居たいの。
< 544 / 599 >

この作品をシェア

pagetop