風が、吹いた



「そう…ですか…」




それだけ言うと、車窓から見える景色に目をやった。


雪が、激しさを増している。



外はもう、薄暗い。



ぎゅっと、膝に乗せた手に力を籠める。



あの人のぬくもりが、逃げてしまわないように。



カタカタと、小刻みに、身体が震えている。



自分は、無力だ。



今でも、なんの力もない。


権力を前にして、何もできない。



貴方を守ることは愚か、



自分を守ることすら、できない。



ちっぽけだ。



あの頃のまま。



「っく…ひっ…」




停止していた熱い雫が、また、バラバラと落ちてくる。



鳩尾(みぞおち)が、締め付けられて、苦しい。





怖い。





死んじゃうかもしれない。




もう二度と逢えないかもしれない。




そんなの嫌だ。




貴方はあったかかった。




笑ってた。




話してた。




息をしてた。




しがみついて、放したくなかったのに。




どうして、どうして、引き離されたの。




置いていかないでって言ったのに。




待って、と言えたのに。
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