風が、吹いた
人はモノじゃない
「ほう…それで?」
煙をゆっくりと吐き出しながら、窓際に立つ老人は何日も降り続けている雪を見つめる。
「大変申し訳ございません…あいつらがぁ見失わなければぁ、こんなことにはぁ、ならなかったのですがぁ…」
「つまり」
振り返り、老人はガツン、と杖を机に叩き付けた。
さっきから震えながら頭を下げ続けている神林が、ひぃっと小さく悲鳴を漏らす。
「孝一に撒かれた挙句、森明日香は自宅に帰り、身元不明の男が、恐らく嘉納がらみの怨恨により、犯行に及んだらしい。それも、孝一をではなく、相手の女を狙った、と。こういうわけだな?」
顔面蒼白の神林は、頭を下げたまま、はいぃ、と返事をする。
「随分と安っぽいシナリオだのぉ?神林」
アンティークの大きな机に葉巻をこすりつけ、老人は薄く笑う。