風が、吹いた
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「ぢくしょうぅ…」
半殺し状態の神林が、凍えるような寒さの中で必死に身を丸めて庇いながら血を吐き出し、毒吐く。
「30年、30年も仕えてきたのにぃ…ぢくしょぉぉぉ」
さっきまでは自分の配下にあった人間が、今は自分より上になり、そして止めを刺そうとしている。
「じにたくなぃぃ。どうして…」
―森明日香さえ、こちらの思惑通りに動いていれば、こんなことにはならなかったのに。
実際は自宅に帰ったかどうかという確認は取れていない。ただ、孝一の前にも、女の前にも、森明日香は姿を一向に現さなかった。
速やかに事は運ばなければならない、と思った。
自分の手腕を認められたかった。
ずっと、
仕え続けてきたのに。
このざまか、俺は。
所詮、志井名からしたら、俺の価値は、こんなものだったのか。