風が、吹いた

「何の用だ」




緊張感が漂う場面なのに、目の前の女は場違いな程に真っ赤なコートを着て、美しく笑っている。




「取引しませんか」




志井名家の者達に戸惑いの色が浮かぶのを、女は益々楽しそうに笑いながら見ている。




「その人、私、欲しいんですけど」




ピッと、指差した先に、ほぼ動かない神林が居た。



益々動揺が広がり、リーダー格の男が首を振る。




「いや、それはできない。」




その反応に、女はうーん、そっか、と考え込む。




「でも、これ、私が見たってマスコミなんかに言っちゃうと、まずいんじゃないんですか。」




男達の動きが固まる。




「志井名はそれでも、そのネタ、あらゆる方向から手を回して止めちゃうんでしょうけど。」




そうだ、そうだ、と一瞬で安堵する男達。
< 554 / 599 >

この作品をシェア

pagetop