風が、吹いた

廊下から、カツン…カツンとヒールの音がする。



久々に聞いたな、と孫の顔をじっと見つめたまま思った。



一歩から一歩に移る途中に、少しの間が挟まれる独特な足音。



ドアをスライドさせて部屋に入ってきた足音の主は中年の痩せた女だった。




「…真紀子か…」




「お父様…」




予想していなかったのか、驚いたように固まった彼女は、一瞬の後小さく会釈すると、父と反対側のベットの傍に立った。



そして、我が子を慈しむように見つめる。



控えめな娘とその息子は、目と口元がよく似ていた。





2人の顔を見比べていると。




「…今」




息子を見つめたまま、小さい声で、真紀子が口を開いた。




「下に行ったら、ひとりの女の子が、、孝一に会わせてくれって受付の人に頼んでいました…」




老人は直ぐにそれが誰なのか、理解できた。



そろそろ来る頃だなと予想していた。




「…そうか。」




しかし、真紀子にそれを話すつもりはない。



ただ、相槌を打った。




「…会わせてあげられないのでしょうか…?」




病院を嗅ぎ付けたマスコミと合わせて面会謝絶にしているから、受け入れられないと言われている場面も目撃したのだろう。



同情するように真紀子が訊ねる。
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