風が、吹いた
________________________


新規患者の受付が終わり、予約患者ばかりが椅子に座り、清算が終わるまでの待ち時間を持て余している広いフロア。




「ですから」




はぁ、と呆れたような溜め息をついて、受付の人がカウンターに肘を着き、頭を抱えた。




「何度も言っていますよね?嘉納孝一なんて人間は当院にはいません。」




これで、何回目のやりとりかわからない。




彼に会いに行こうと決めた私は、妨害を回避する名案など思いつかず、真っ向勝負に挑んだ。



道中阻まれることも予想できたが、どうしてか、それはなかった。



案外上手い具合に、トントン行くのかなと淡い期待を抱きながら病院に到着。



世界はそんなに甘くないということを痛感している。



「いーえ!居る筈なんです!お願いします。どうしても、会わなくちゃいけないんです!知り合いなんです!」




傍目から見ても、噛み合っていない会話に、周囲もそれとなく耳をそばだてている。

恐らく、同情票は受付に集まっていることだろう。
< 567 / 599 >

この作品をシェア

pagetop