風が、吹いた

「いい、い、痛い、痛いですって…」




訴えるが、前の人間は止まらない。




慣れた手つきでエレベーターに乗り込むと、地下駐車場のある階のボタンを押した。




「あの…」




何か質問してみようといいかけるが、どうも良い言葉が見つからない。



無言が勝利を治めた瞬間、エレベーターのドアが開き、到着を知らせた。



なおもきつく引っ張られて、がらんとした駐車場にカツカツという自分の足音が響く。



やがて柱の影に隠れるように、ひっそりと停まっている黒塗りのロールスロイスを見つけた。



スモークガラスになっているせいで、中は窺えない。


けれど、なんとなく嫌な予感はしている。
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