風が、吹いた
その前まで行くと、男が立ち止まった。
がちゃ、と音がすると笑っているのか、元からそうなのか、半月のような目をした運転手らしき男が出てきた。
「さぁ、どうぞ」
私を掴んでいた男はそう言って手を放し、中へ入るよう促した。
運転手は後部座席のドアを開けて、私を待っているようだ。
どう考えても、中へ入ってはいけない、と危険信号が光っている。
しかし―
「大丈夫です、今回は。ただ、あなたとお話がしたい、と仰っている方がお待ちしています。」
意味深な言葉を添えて、男が冷たい目でこちらを見る。
その目を十分に見返してから、ゆっくりとドアに近づいた。
開かれたドアの先で自分を待ち受けていたのは、杖に両方の手をのせてまっすぐに前を見つめて座る白髪の老人だった。
バタン、と後ろで音がして凍えそうだった冬の空気がぷつりと途絶えた。