風が、吹いた
ちら、とこちらに目を向けた老人は、わざとらしいほどにニコリと笑った。
「初めまして、かな。」
革張りのシートの居心地の悪さが、目の前の人間の威圧感によって倍になった気がする。
ドッドッと自分の心臓の音がやけにすぐ傍で聴こえる。
背中に嫌な汗がつぅと伝った。
「あなたに言いたいことはひとつだけじゃ。…どう思ってここに来たのかは知らんが、今後一切孝一とは関わらないでいただきたい。」
この人物の正体が、自分が予想していた通りのものだと確信した。
「これは忠告ではない。警告じゃ。」
相手はこちらを見ている筈なのに、さっきから視線が交わらない。
車内にかかっている暖房が、気持ち悪いくらいに暑く感じる。
「………か」
口の中がからからで、ひりつく喉から出された言葉は自分の予想より大分か細かった。