風が、吹いた
こちらを穏やかな表情で見ていた老人の眉間に微かに皺が寄った。
自分の膝に着く手が、震えている。
でもそれは、恐れからというよりも。
「…どうして、あなたに言われなきゃいけないのでしょうか」
沸々と根底から湧き上がる、怒りからきている。
今度ははっきりと声が出た。
一瞬の沈黙の後、ひっひと引き笑いが車内に響いた。
「愚問じゃな。答えるまでも無い」
老人の瞳は鋭さを増して、射抜くように私を見据える。
「私は、あなたに会いにきたんじゃありません。孝一さんに、逢いに来たんです。」
それに怯まずに、私も見つめ返した。
視線を逸らしたら、負けてしまう気がして。