風が、吹いた
老人の笑みがさっと消える。
「そんなこと、どうだっていい。ワシにはなんの関係もないくだらんことだ。」
吐き捨てるように、言った。
「お前も、もう必要ない。孝一はよくわかった筈じゃろうて。」
言いながらもう私の顔を見ることなく、運転席に座っていた男に顎で合図した。
「警告と言ったろう。次は、ない。もしもお前がもう一度孝一と接触しようとする仕草を見せたその時は―」
ガチャリ、と重そうな音と共にドアが開かれて、老人を食い入るように見つめたままの私の背中に、外の冷たい風がぶつかる。
「孝一の最期だと思え」
狡い。
と思った。
自分の為に自分が傷つくのではない。
自分の為に誰かを傷つける。
目の前の人間は、それをいとも簡単にやってきたのだろう。
手帳に書かれている予定を読み上げる時のように、何の抑揚もない口調でそう言った。
まるで人には意思などないかのように。
自分の為に使い、棄ててきたのだ。