風が、吹いた
「思うわけ、ないじゃないですか」
加賀美の声に、老人の背中がぴくりと反応する。
「これは、お願い、じゃありません。警告、ですよ?貴方が好きな。」
不敵に笑う加賀美に、志井名が再度振り返る。
「警告、じゃと?このワシに。ひっひっ、益々面白いのぅ…だが、ワシは誰かに指図されるのは好まん。相手が誰であろうと、な。」
志井名から笑みが消え、怒りが伝わってくる。
しかし、そんな志井名に、加賀美は微動だにしない。
「えぇ、分かっています。私も大嫌いです。」
そう言って、組んでいた腕を解いた。
「それはさておき…貴方はまず人の話を聴くことすら出来ていないみたいですね?」
その言葉に、浅尾がポケットからレコーダーのような小さな機械を取り出す。
「倉本の、言ったことに関して、返事はちゃんとしなくちゃいけないんじゃねーの?じーさん。」
ポンッと放り投げたそれを掴むと、浅尾が尋ねる。
「この答えは?」
彼の手に持つ機械から、先ほどの私の声がリピートされる。
≪孝一さんの気持ちはどうなるんですかっ!?≫
一瞬の静寂がその場に訪れた。
「…なんの真似だ?それは」
やがて、低い声がそれを破る。