風が、吹いた
「私が貴方にお伝えしたいのは、倉本さんと同じことです。」
カツカツと高いヒールを鳴らして、加賀美は制する男を振り切り、志井名に近づく。
真っ赤なコートのポケットに両手を突っ込んで、加賀美は老人を見下ろした。
「人は、モノじゃ、ない。孝一氏も貴方のモノじゃ、ありません。」
ぎり、と歯を食いしばる音がして、志井名は加賀美を睨む。
「…それは脅しか?」
「滅相もありません。こんな会話だけを録音できたからといって何の脅しにもならないことは、馬鹿でも分かります。」
言いながら、お互いの車と同じ位に近づくと、加賀美は低く囁く。
「貴方がいらなくなったモノを、棄てたから、いけないんですよ」
志井名の眉間にさらに深く皺が刻み込まれる。