風が、吹いた
まさか、と目を見開く老人から、ぱっと加賀美は離れる。




「貴方は人を雑に扱いすぎた。モノとしてね。でも、人間は生きてて、常に自分で選択して居る。全てが貴方の思い通りに動くわけがないんです。それから」




人差し指を立てつつ、加賀美が続ける。




「志井名をではなく、志井名忠司の失脚を画策しているのは嘉納だけじゃないってことを覚えておいてくださいね。」




満面の笑顔で言い放った。



「さぁ、どうします?あそこに居る彼女は出版社の方です。物事は何事も早い方がいいですからね?」




吉井がひらひらと手を振った。



先程から事の成り行きを見守っていた男達は、主人の出方を待っている。




「…なるほど、身から出た錆というわけ、か。」




引き笑いを再開させながら、志井名は呟く。
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