風が、吹いた
いや、全然嬉しくないから。
心の中で突っ込む。
「なんか…どうなったのか、いまいち見ててもよくわからなかったんだけど…ありがとう。」
とにかくお礼を伝えたかった。
座ったまま見上げてから、お辞儀する私に、3人が顔を見合わせて声を出さずに笑った。
「簡単に言えば、暫く志井名は大人しいということですよ。それから―」
加賀美が言いかけた所で、先ほど出て行った男が息を切らして足早に駐車場に戻ってきた。
「…倉本、千晶さん。こちらへ…」
男の言葉に、浅尾が手を差し出しながら、加賀美の言葉を繋げる。
「椎名先輩に、会えるってことだよ。ほら、立って。腰抜かしてる場合じゃない。」
差し出されたその手をそっと掴むと、ぐいっと引っ張られて立たされた。
「行ってきな」
見送る3人の視線に背中を押されて、しっかり頷くと、私はエレベーターホールの前で待っている男の元へと向かった。