風が、吹いた
「なぁ、加賀美、、サン。一個、訊いても良い?」
浅尾の問いかけに、加賀美はエンジンをかけつつ、開いたウィンドウから目線だけで頷く。
「今回のこの登場の仕方とか、何か意味があったの?」
浅尾はポケットの中のレコーダーをいじりながらさっきの場面を回想していた。
それに対して直ぐには答えずに、広いスペースまで車を移動し、回転させてから浅尾の前に戻ってくると、吉井側のウィンドウが開く。
奥の運転席から、加賀美が妖艶な笑みを湛えて彼を見やると。
「いえ。全く。ただやりたかったからです。」
と言いー
「じゃ、浅尾、ご苦労!」
にかっと笑った手前の吉井は偉そうに低い車体から、敬礼まがいの仕草をする。
遠退く怪物の尾を見つめつつ。
「あいつらが、まさに大蛇だな」
彼は呆れたように、笑った。
そして、歩き出そうとして、ふと気づく。
凍てつくような寒さが、消え去っていることに。
恐らく、外では。
何日も降り続けた雪が、
やっと太陽に空を明け渡したのだろう。