風が、吹いた

「なぁ、加賀美、、サン。一個、訊いても良い?」




浅尾の問いかけに、加賀美はエンジンをかけつつ、開いたウィンドウから目線だけで頷く。




「今回のこの登場の仕方とか、何か意味があったの?」




浅尾はポケットの中のレコーダーをいじりながらさっきの場面を回想していた。



それに対して直ぐには答えずに、広いスペースまで車を移動し、回転させてから浅尾の前に戻ってくると、吉井側のウィンドウが開く。



奥の運転席から、加賀美が妖艶な笑みを湛えて彼を見やると。




「いえ。全く。ただやりたかったからです。」




と言いー




「じゃ、浅尾、ご苦労!」



にかっと笑った手前の吉井は偉そうに低い車体から、敬礼まがいの仕草をする。






遠退く怪物の尾を見つめつつ。



「あいつらが、まさに大蛇だな」




彼は呆れたように、笑った。



そして、歩き出そうとして、ふと気づく。




凍てつくような寒さが、消え去っていることに。




恐らく、外では。




何日も降り続けた雪が、




やっと太陽に空を明け渡したのだろう。

< 586 / 599 >

この作品をシェア

pagetop