風が、吹いた
「あ、おはよーございます。」
客から注文を聞いてきたらしい彼が、カウンターの方に来て私に気づき、声を掛けた。
それに聞こえないフリをして、私は洗い物に専念する。
そんな私を佐伯さんは不思議そうに、いや、少々困惑した表情を浮かべて見ていたが、すぐに注文票を受け取った。
それは彼も同じだったようで。
ことあるごとに、視線を感じなくはないが、私はことごとくそれを無視し、閉店作業後に佐伯さんに夕飯を誘われても、断って帰ることにした。
自分にとってあまり良い選択ではないことは、重々承知していたけれど、どうしても、嫌だった。