風が、吹いた



「…ち、あき………?」




私を呼ぶ、少し掠れた声がする。




夢じゃ、ないんだろうか。



幻聴かもしれない。




でも。




うっすらと開かれた目は、おぼろげだが、私を映し出している。






そして、微笑む。






私の大好きな、その笑顔で。







「こ、こ…いち…」




驚きながらも、名前を呼ぶと、握り返される力が少し強くなった。



涙も激しさを増してぼたぼたと落ちる。




やっと。




貴方に、




逢えた。




「また…泣かせちゃったの…?」




今起きたばかりの人は、もう私の心配をし始める。




「嬉し泣きです」




言いながら、いたずらっぽく、へへっと笑う。
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