風が、吹いた
カランカラン
物思いに耽っていると、金のベルの音がした。
「…佐伯さん…」
何も羽織っていない佐伯さんは、まだワイシャツに腰巻きのエプロンをつけたままで、寒そうに肩を縮める。
「大分寒くなったねぇ。」
穏やかに呟いた言葉に、裏はないようだった。いつも通りの静かな話し方。
自転車の脇に突っ立っている私の傍に来ると、佐伯さんは同じように夜空を仰いだ。
「ねぇ千晶。」
星に目を向けたまま、佐伯さんが私を呼んだ。
「……はい」
佐伯さんに向けていた顔を、私も空に戻して、返事をする。