風が、吹いた
「僕は、千晶が嫌だと思うことを、したいとは思ってないんだけどね。」
佐伯さんの靴が、じゃり、と音をたてた。
「千晶には、時間を無駄に過ごして欲しくないんだよ。」
私は黙って、佐伯さんの次の言葉を待つ。
「世界には知らなくていいことが沢山ある。でも、知っていいことも、同じくらい、ある。」
夜空から、私に顔を向けて、佐伯さんは優しく微笑んだ。
「だから、千晶が壁を作ることで、それができなくなるのは、僕は悲しい。」
「…なぁんて、説教っぽいかな。」
ぽつりと呟く。
「僕はこういう話は苦手なんだよねー」
でもね、と続ける。
「せっかく作った夕飯は、千晶に食べて欲しいんだ。次からは、ね。」