風が、吹いた
居場所
道を真っ直ぐ進んで暫くすれば、右手にバイト先のカフェが出てくる。
白の壁に水色の屋根、ドアも屋根と同じ色。
入るとカランカランと金色のベルが鳴る。
「こんにちは」
カウンターから眼鏡越しにこちらをのぞくと、店主は微笑んだ。
「おかえり。学校はどうだった?」
白髪交じり、痩せ型長身の佐伯さんは、私がバイトに来ると必ずこう訊く。
私はカウンターの裏にある戸棚に鞄を仕舞うと、壁に掛けてある黒いポケット付エプロンを体に巻きつけ、リボン結びをしながら答えた。
「普通でした。いつもと変わらず。」
毎度同じみの答えに、からからと佐伯さんは笑って。
「3番テーブルに運んでくれる?」
淹れたての熱いコーヒーが入った真っ白なカップとソーサーを指差した。
「はい。」
3番テーブルには若いカップルが座っている。
急いで手を洗って消毒し、運んだ。
空のトレイを片手に見回してみると、今日もお客さんが結構入っている。
繁盛しているのだ。
こんなに小さくて、わかりにくい場所にあるというのに。
その理由は、なんとなくわかる。
何しろ、ここは居心地が良い。
温かい空気、コーヒーの香り、お湯が沸いた時にあがる湯気。
店主の佐伯さんはいつも穏やかな笑みを絶やさず、人の気持ちも乱さない。
セレクトした輸入菓子もセンスがいい。
たまに手作りもあるのが、ちょっと笑える。