風が、吹いた
月灯りの下の真実
「どうして、ここにいるの?」
慣れた手つきで、自転車を脇に停めた彼が、静かにそう訊ねた。
私はいまだにはっきりしない頭の隅で、先輩の自転車はマウンテンバイクだから、でこぼこな道でもここまで乗ってこれるんだ、とどうでもいいことを考えていた。
ようやく私が顔を上げた時には、照明が月だけに戻って、辺りも変わらず静寂に包まれたままだった。
「…それは、私も訊きたいです」
ふてくされたように聞こえただろうか。でも、ここに先輩が居る理由が、不思議で仕方ない。
そんな私の問いかけに、先輩は、ふうっと息を吐いてから。
「そこ。」
と、あの小さな家を指差す。
「俺の家」