風が、吹いた



「千晶、目をあげて、見てみなよ。世界はこんなにもキレイなんだよ。」




椎名先輩が立ち上がって、近くに来る気配がする。




「でも、見てくれる人がいないと意味がないんだ。」



パーカーごと、私をそっと抱きしめて、小さい子をあやすみたいに頭をなでる。



「こんなに大きい世界も、誰も居なかったら寂しいと思うんだよ。」




その言葉は、私自身の中でタブーとされている寂しいと思う、誰かを慕う想いが、当たり前のものなのだと言ってくれている様で―



許す許さないじゃなく、自然の摂理なのだと教えてくれるようで、



私の涙は止まらなくなった。



そして、押さえ込んできた想いも。




「……ひっく、ひっ…寂しい。ひとりは、やだ。寂しいよ……」




すっかり冷えきった身体を、涙だけが熱を持って流れていく。



今までの分を取り戻すかのように泣き続ける私を、先輩は泣き止むまで抱き締めてくれていた。
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