風が、吹いた
随分長いこと泣いていたらしく、腫れぼったい瞼をパーカーの下から出すと、月が大分高い位置にあった。
「泣き止んだ?」
声も掠れるくらいしかでないので、無言で頷く。
「ここに咲いてる花、名前わかる?」
先輩が腕を解いて、さっき見ていた庭に咲く、白く小さい花を指さした。
見当もつかない私は、首を横に振る。
「プリムラ」
先輩はそう言って、徐にそれを千切りとった。
「名前に、『本来の』とか『最初』っていう意味があるんだ。」
今の千晶にぴったりの花だねと言って柔らかく笑う。
「さて、と。では改めて、倉本千晶。俺と友達になってくれますか?」
彼は手に取ったその花を私に差し出して、そう言った。
『本来の』私に、ということか。
少し戸惑った後、私はその花を受け取った。