風が、吹いた
謎多き彼
コンと軽い音をたてて、紙を丸めた物体が、隣の席から、私の机の上に着陸した。
倫理の時間、ドフトエフスキーの死の家の記録について、その顔の形ゆえに影でおにぎりと呼ばれている小林先生が語っている最中のことだった。
無論、教室内の大半が夢の中にいる。
訝しく思い、眉間に皺をよせつつ、横目で隣を見る。
吉井がウィンクする。鳥肌がたつ。
咄嗟に目を逸らし手に取った紙切れを、開くこともせずに、机の端に追いやる。
ふと、強さを増したように感じる隣の視線が気になって、もう一度目を向けると、吉井が今にも泣きそうなムンクの叫びみたいな顔になっていた。