君と奏でる音[前編]
奏介の過去
家には誰もいなかった。
リビングの冷蔵庫から小さいパックのリンゴジュースを取り出す。
それを飲みながら階段を上り、
3年…。あれから3年間使っていない部屋の前に立つ。
すでに使われなくなったピアノ部屋。
ドアノブに手をかけ、右へゆっくりと回した。
さっきから心臓が騒がしい。
まるでピアノを拒んでいるみたいだ。
『私は覚えてる。』
『たとえ、音楽界から姿を消しても私は忘れない。』
『天才ピアニスト、桐城奏介のことを』
ほら。頭から離れなくなった。
"ピアニスト"
僕がこの世界で一番嫌いな単語。
僕は3年前ピアノをやめた。
音楽をやめた。