君と奏でる音[前編]
正直その場から逃げ出したかった。劇場から、あの舞台から。このまま僕がピアノを続ければ、泉田先生に迷惑をかけてしまう。そう思った。
だが、そんなことできるはずもなく、僕はピアノの前に立った。椅子に座れば嫌なことなんか忘れられたのに。今回は違った。
不安、恐怖、緊張…。
その他いろんな感情が入り混ざって、落ち着かない。
それでも弾かなければならないから、指を鍵に置く。
『大丈夫。負けるな、僕なら大丈夫だ。いつも通りに、楽しく、心を踊らせ!』
『ショパン/ノクターン第20番 遺作』
…その曲が、僕が最後に弾いた曲。