君と奏でる音[前編]
「私が全て支えてあげる!想いも音もフォローする。だから…!」
「やめてくれ!!」
とっさに怒鳴ってしまった。
あーあ、やっちゃったな。
ほら、彼女の瞳孔が開いている。ゆらめいている。
でも、これは許せないな。
いくら幼なじみの友人だとしてもさ。
ごめんな。
「僕を知ったような口をきかないで。僕の苦しみなんて分からないだろう?僕がどんな想いでピアノを弾いてきたのか。どんな想いで音楽をやめたのか。同情なんて必要ないんだよっ!!」
完全に嫌われたかな。
せっかく誘ってくれたのに。
僕は逃げるように音楽室のドアノブに手をかけた。
僕はピアノを弾かない。
僕の音はピアノは人を不幸にするだけだ。
「いつまで逃げるつもり…?」
狭い音楽室に彼女の声が響いた。
静かに、落ち着いた口調。だが怒りがあった。
僕は逃げているんだ。
ピアノから、音楽から。
彼女の声を無視して音楽室から出た。
廊下で幸音とすれ違ったけど珍しく無言だった。
本当、珍しいな。