君と奏でる音[前編]
「もうコンクールには出ないって、約束したじゃん!!なのに、なんでまた…」
私は目を堅く瞑り、黙って俯いた。
「また辛い思いをしに行くの…!?ねぇ狐乃羽!!」
「幸ちゃん、お願いだから落ち着いて…?私の話を聞いて…?幸ちゃん…」
わかってる。
辛かった。本当死にたいくらい辛かった。
生きていても仕方がないって、早く母に逢いたいって、そう想った。
幸ちゃんは止まらない。
感情を全てぶちまける。
「なんで奏介となの…?彼奴はもうピアノは弾かないって…。自分の音は人を不幸にするからって…。だからピアノをやめたんだよ?なのに、また彼奴の苦しんでいるところを見ないといけないの?」
幸ちゃんは俯いたまま、涙を流した。
「もう…、嫌なの。奏介や狐乃羽が苦しんでいるところを見ているのが。何もできない自分が悔しいの…」
言葉が出ない。
幸ちゃんは私を理解してくれる一番の人。
大切な友達。
そんな彼女を泣かせてしまったのは、辛い思いをさせてしまったのは自分。
でも、今回は譲れない。
たとえこの仲が引き裂かれようと、私はコンクールに出る。出なきゃいけない。