君と奏でる音[前編]
「コンクール、どんなに幸ちゃんが止めても出るよ」
たとえ辛くなっても、演奏できなくなっても、死に直面しようとも。
「この東雲コンクールには母さんがいるの」
あの日、母さんが邦丘ホールで演奏出来なかったこの曲。
「私は母さんに会わないといけない。母さんを安心させるためにも。絶対」
「狐乃羽…」
「だから、ごめんね幸ちゃん。コンクールに…出さしてください…」
私は幸ちゃんに深々と頭を下げた。
少しの沈黙のあと、幸ちゃんはおもむろに口を開いた。