聖夜は恋の雪に埋もれて
 1周を終えてゴンドラから降りてきた二人の姿に、私は驚かされた。

「ああ~! 鉄平君と麗じゃん!」
 瑠璃がよく通る大きな声で言う。

 そんな瑠璃の後ろにいるのは―――。
 奏!

 奏も私と同じく驚いたようで、黙ったままだ。
「瑠璃と奏も来てたのか。まさか、そっちもナイトパレード目当て?」
 笑顔で聞く鉄平君。
「もっちろーん!」
 白い歯を見せながら、瑠璃が嬉しそうに答える。

 私はというと、ショックのあまり、すっかり放心状態だった。
 心への打撃が大きく、言葉が出ない。
 まさか、奏と瑠璃が言ってた用事って、このことだったなんて……。
 胸が痛む。
 でも、「どうして二人とも、言ってくれなかったんだろう」とは思わなかった。
 だって、私もこうして、二人に知らせずに、鉄平君と出かけているし……何より、私は奏の彼女でも何でもないんだから、言わなきゃならない理由などないから。
 瑠璃だって、きっと後で教えてくれるつもりだったんだろう。
 私の、奏への片思いのことは、瑠璃ですら知らないんだから……。

「麗も楽しんでる?」
 急に瑠璃が話を振ってきて、私は我に返った。
「あ、う、うん……」
 慌てて答えるけど、やはりうまく言葉が出ない。
「あんまし楽しそうじゃなさげ~。鉄平君、しっかりしろぃ!」
 おどけた調子で瑠璃が鉄平君を叩くと、「ええ~、俺だって頑張ってるぞ!」と言う鉄平君。
 私は慌てて、「あ、楽しんでるよ!」と言った。
 奏は、きまり悪そうにきょろきょろしている。
 長い付き合いの私でなくても、奏のその様子を見れば、「気まずいんだなぁ」ってはっきり分かるはずだ。

「じゃあ、ここからはダブルデートってことにする?」
 突然、奏がそう言って、他の三人は一斉に奏を見た。
 幼稚園時代ほどではないにしても、人が多いところでは寡黙な奏が、こうして自らの意見を発信することは極めて稀だったから。
「え~、私と二人っきりが嫌なのかぁ?」
 口を尖らせる瑠璃。
「そ、そういう訳では……。でも人数が多くても、楽しいかなって……」
 奏はそう言って口ごもった。
 私は大賛成なので、すぐに「うん、そうだね!」と奏に同調する。
 すると、今度は鉄平君が寂しそうな表情でつぶやいた。
「うう……瑠璃の言う通りだよなぁ……。俺と二人っきりだと、全然、麗を楽しませられていないみたいだし……」
 肩を落とす鉄平君。
「い、いえいえ、そういう訳じゃないの」
 私は慌てて言う。
 すると、瑠璃がまた口を開いた。
「だったら、今日のところは別々に行動しない? んでね、次回、みんなでもう1回来るのだ! どう? 名案でしょ?」
「そいつは名案だ! さすが瑠璃!」
 元気を取り戻した様子で、鉄平君が言った。
 うーん……鉄平君には申し訳ないんだけど……今日だって、奏と一緒がいい。
 でも、そんなことを言える空気じゃなかったし、そうじゃなくても、私には言えない言葉だ。
「おおっと、ほらほら、もうすぐ順番が来るよ!」
 瑠璃の言う通り、鉄平君と私の前には、5人ほどの人しかいない。
「ってことで、私たちはこれで! 鉄平君も麗も、目いっぱい楽しむんだぞ! ゴンドラから見下ろす風景、綺麗なんだから! じゃあ、奏君、行こっか」
 そう言うと、軽く手を振りながら、歩き出す瑠璃。
 奏は「それじゃ」と、鉄平君と私に向かって言うと、静かに瑠璃の後を追う。
「じゃあな~!」
 元気良く二人に向かって手を振る鉄平君。
 私も小さく「じゃあ、またね」と言って、手を振った。
 そこで、ちょうど順番が来て、鉄平君と私は、係員さんに促されて、赤いゴンドラへと乗り込んだ。

「いや~、まさかあの二人と、ここで会うなんてね~」
 明るく言う鉄平君。
「う、うん、そうだね」
 私にはそれぐらいしか返す言葉がなかった。
「さーて、景色を楽しまないと、すぐ終わっちゃうよ。ほら、麗。どんどん高くなってきたぞ」
 鉄平君はそう言って、窓の外を指差す。
 心のショックが抜けきれていなかったけど、落ち込んでばかりいると鉄平君に申し訳ないので、なるべく平静を装って、私は窓の外へと視線を向けた。
 鉄平君と二人っきり。
 つまり……さっきまで同じように、奏と瑠璃が二人っきりだったわけだ……。
 楽しげに窓の外を見る鉄平君の手前、私は、何ともない様子を取り繕うのに必死だった。



 やがてゴンドラは地上へと戻り、私たちは相次いで降りる。
 そして、鉄平君の提案で、また別のアトラクションへと向かった。
 私の気分は、全く晴れないままだったけど。
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