聖夜は恋の雪に埋もれて
「これこれ。これを見てくれたまへ~」
 瑠璃の部屋に落ち着くと、仰々しい言葉遣いと挙措動作とともに、瑠璃が何かを持ってきた。
 見ると、どうやら分厚いカタログのようだ。

「奏君へのクリスマスプレゼント、時計にしようと思うんだ。土曜に本人から聞いたんだけど、奏君、朝が弱いんだってね。目覚し機能が優れてるヤツがいいかな?」
 たしかに、奏は朝が弱い。
 普段から両親に起こしてもらっているらしいけど、それでも起きないことすら、たまにある。
 そんなときは、私が奏の家にお邪魔して、奏の部屋のドアをノックする。
 そして「早くしてよ。遅刻しちゃうよ」と言うと、中から「ああ、うん」と低い声がし、しばらく待ってようやく眠そうな顔の奏が出てくる……という流れになるのだった。

「でね、麗はどれがいいと思う?」
 私はカタログを覗き込む。
 そして、奏が好きそうなのを一つ見つけ、指差して伝えた。
「こういう、シンプルなのが奏は好きかも。色は、無彩色がいいかな」
「む、むさい?」
「無彩色。白、黒、グレー系の色のこと。奏って、そういう色が好きだから。これなんか、良さそうでしょ」
「ああ、ほんとだ! 黒でシックだね~。奏君のクールなイメージにぴったり!」
 たしかに、奏はたまにクールかも。
「いや~ありがとね~。さっすが幼馴染だけあって、麗は奏君に詳しいね」
 幼馴染……。
 そうだ、奏にとって、私はそれに過ぎないんだ。
 私にとっての奏は、単なる幼馴染ってだけではなく……もっと、大切な人。
 でも、そのことを言う勇気はやはりない。
 もし言ってしまうと、もう幼馴染にすら戻れないから。

「あ、じゃあ、こっちのはどうかな? これも黒でしょ」
 瑠璃が別のを指差す。
「ああ、うん。こっちのほうが、少し大きめで、文字盤が見やすくていいかも」
「じゃあ、きっまり~! このおっきくて黒い時計さん、私の恋を叶えてね」
 そう言って立ち上がると、くるりと一回転する瑠璃。
 スカートがふわりと舞う。
 これが許されるのは、瑠璃みたいに可愛い子だけかも。
 私がやると、かなり寒そう……というか、「ぶりっ子やめろ」で終わりそう。

 ……全く心が晴れないけど、こんなに器が小さいなんて、良くないかな。
 奏にも瑠璃にも、そして鉄平君にも申し訳ない。
 もしも、奏が瑠璃とお付き合いを開始しちゃうなら……鉄平君とお付き合いしようかな。
 ダメダメ!
 そんな理由で付き合っちゃ、鉄平君に失礼。
 でも、もし断ったら……。
 遊園地デートに誘ってくれた際に見た、しょげる鉄平君を思い出す私。
 あんな風な姿、見たくないなぁ……。
 だけど……。

「いや~、麗のおかげで助かったよ~。奏君、喜んでくれるといいな」
 瑠璃の言葉で我に返る。
「う、うん、そうだね」
 そう言えば、奏へのクリスマスプレゼントとして、私はお菓子を作ろうとしていたんだった。
 もし、瑠璃とお付き合いすることになっていたら、プレゼントを変更しないと。
 親友の彼氏に、手作りお菓子を渡すとか……まずすぎる。
 


 その後は、たわいもない雑談をして過ごした。
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