聖夜は恋の雪に埋もれて
 帰りは、奏と瑠璃に家まで送ってもらうことになった。
 雪の中、申し訳ないんだけど……。

 おしゃべりをしながら歩いてたら、突然、瑠璃が「わわっ」と大きな声を出して、びっくりした。
 奏も驚いたみたい。
 瑠璃は足を滑らせて、転んだようだった。
「いてて……」
「おい、大丈夫か?!」
 奏がすぐに近寄って、瑠璃に手を差し出した。
 その手を「ありがとう」と言って掴み、立ち上がる瑠璃。
「ごめんごめん。別に雪が積もってるわけでもないのに、何やってんだ、私は……」
「路面が、凍ったみたいになってるんだろ。気をつけないとな」
 奏の言う通り、私たちの歩いている歩道はところどころ、ツルツル滑りやすくなっているようだ。

 そして、私はちょっと瑠璃に嫉妬した。
 奏の手を握ったっていう、ただそれだけのことで……。
 その程度のことで嫉妬するなんて、自己嫌悪に陥りそう。
 でも、咄嗟に駆け寄って手を差し出してあげる奏は、やっぱり優しいな。
 奏の優しさはいつものことではあるけれど、改めてそう感じた。
「ほんとありがと~。奏君の手、あったかかった!」
 瑠璃の言葉に、心なしか少し奏が赤くなった……気がした。
 気のせいだといいけど……。
「渋宮の手が、冷たすぎるからだと思うけどな」
「まぁ、それはあるか」
 くすくす笑う瑠璃。

 そうこうしているうちに、私の家に到着した。



「今日は誘ってくれてありがとう。しかも、送ってもらっちゃって」
 私が言うと、駅前へ出発する前と同じように、二人とも「気にするな」と言ってくれた。
「じゃあ、また明日」
 元気良く言う瑠璃。
「瑠璃、気をつけて帰ってね」
「俺が送ってくから、心配しなくてもいいって」
 えっ。
 ここから、奏と瑠璃は二人っきり?
 それを言い出すと、駅前に出発する前、私のバイト先のドア前で待ってくれてたときも、そうだったはずなんだけど。
 そういうことを思い返す余裕がないほど、気が動転してしまっていた。
 さっき、瑠璃が奏の手を握ったところを見てしまったから、意識しすぎているのかな。
「あ、今度は俺の心配か。麗は心配性だなぁ、つくづく」
 人の気も知らないで、無邪気に笑う奏。
 どうやら、私が気にしていることについては、バレてないみたいだけど。
 さっきから瑠璃は、珍しく黙ったままで、しきりに奏と私を交互に見やっている。
「でも、ほんと、気をつけてよ」
「おう。んじゃな、麗。じゃあ、渋宮、帰るぞ」
「え? あ、ああ」
 我に返った様子の瑠璃は、すぐに「じゃあね」と私に向かって言う。
 瑠璃の顔には、すでにいつもの笑顔が戻っていた。
 でも私は気になってしまう。
 瑠璃、ちょっと様子がおかしかったような……。
 
 歩き去る二人の後姿が気になっていたものの、あまりに長く見続けていると、二人に気づかれてしまうので、やむなく私は家の中へと入った。
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