ファミリー
だが高森自身は不気味な体験をした
ことなど一度もない。

第一仕事に追われていて目前の現実
以外に思いを馳せる余裕もなかった。

『いやだな。全然怖がってないでしょ。
まあ先生みたいにイケメンだと、幽霊
なんかより泣かせた女の方が恐ろしい
んだろうな』

沖田は笑いながら何度も頷いた。

『だけどうちのは本物ですよ。
目撃者だってたくさんいるんだから。
俺? いや、俺は見てないですけどね』

男の子の幽霊。

少年に気づいた時にうすら寒く
感じなかったと言えば、嘘になる。

けれども高森はいっさい表情を変え
なかった。

改めて小さな姿に目をやることもなく、
ナースステーションの向こうにある
仮眠室に向かって歩き出す。
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