狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録
戻らない女子生徒
―――学園の三階にある茶室へと先にたどり着いたシュウ。横引きの扉をあけると爽やかな香りが彼の鼻先をくすぐる。これはあの異文化を代表する畳というものを部屋一帯に敷き詰めているからだろう。
「あれ、シュウあんた一人?アオイは?」
何かと二人に世話を焼いてくれるあのクラスメイトがシュウを手招き、隣りの座布団へ座るよう促した。
「…アオイは傷の手当中だ」
ドカッと腰をおろし、あぐらをかいたシュウを見つめているのは彼女だけではない。
四方八方を女子生徒に囲まれたアランの視線も彼に注がれている。
(あの少年はたしか…)
彼と一緒にいたはずの可愛らしい少女の姿が見えない。
そしてシュウは何やら隣りの女子生徒と言葉を交わしているようだが、幾分距離のあるこの位置からでは会話の内容までは聞き取れなかった。
「ねぇねぇ!アラン先生って何歳?年下も恋愛対象になるぅ?」
「…君たちよりは長生きしてるつもりだよ。恋愛対象?…それは私の愛しい人がこの世に誕生したその時からさ」
「なにそれ!!すっごいロマンチックッッ!!」
"きゃあっ"という今日何度目かとなる女子生徒たちの嬌声が上がるが、アランは興味なさそうにため息をついた。
(他人の色恋を知って何がおもろい…教師とはこれほどまでに大変なものなのか…)
冷やかな瞳をもはや隠そうとせず、アランは時計をみやる。
(それにしても…この授業を担当する教員は一体何をしているというのだ?)
二時限目が開始されてからすでに15分が過ぎている。そして姿の見えぬアオイという女子生徒がひとり。