狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録

戸惑い

茶道の時間は二時間、生徒たちが小腹を空かせる時間にこの実習があるのは幸運なことかもしれない。

そしておなかを軽く空かせた生徒の中にアオイとシュウも含まれていた。


いつもならば寝坊した日の朝食はほとんど口にしていないため、今頃夢中でお菓子を頬張っているはずだ。


だが、今日のアオイはセンスイが点ててくれたお茶と茶菓子を口にしながら考え事をしている。


"怪我が完治したらで構いません。私と学園外で逢ってくださいませんか?"


(センスイ先生と学園の外で…)


教師と生徒が学校以外で逢うということ…それがあまり良い事ではないのだと自覚はある。


(でも、何か困りごとがあるのかもしれないし…)


美しい湖面のようなお茶の表面を見つめ、アオイは葛藤していた。


すると…


「アオイ大丈夫?どうしたのぼーっとして」


「…っ」


はっと顔を上げると目の前にはシュウと面倒見の良いクラスメイトのミキが心配そうに顔を覗き込んでいる。


「二時限目終わって今、休憩時間に入ったんだよ。ほらお手洗いに行くなら連れて行くからさっ」


怪我したアオイを気遣ったミキが手を差し伸べて立ち上がらせようとしてくれた。


「あ…ありがと。シュウもありがとう」


ミキの背後で心配そうにこちらを伺っているシュウ。


「ほんとはさ、こいつが手洗いに連れて行くって言ってたんだけどねぇ?流石に男子には連れて行かれたくないと思ってさ」


「…便所くらい俺が連れて行ってもアオイは騒がねぇよな?」


「…えっ?」


ここはミキが正論だとアオイは思った。


「なぁにが"便所くらい"よ!
そんなんだからアラン先生やセンスイ先生に先越されるんでしょ!!紳士になりなさい!紳士にっっ!!」


「…うるせぇよ」


プイっとそっぽを向いてしまったシュウ。
アランとセンスイの振る舞いや言動はとても上品で繊細、かつ優雅さに溢れていて大人の魅力が凝縮された紳士の鑑(かがみ)のような男たちだ。


そんなもので張り合おうなどとシュウは初めから考えていない。


すると…


「シュウはそのままでいいよ」


と、アオイの口から思いがけない言葉が飛び出し…


「アオイ…」


嬉しそうに振り返ったシュウ。


「まったくこのバカップルは…」


ミキがしょうがないというように笑いながらため息をついた。

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