狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録
四時限目
―――すでに四時限目が始まっていたアオイたちの教室では…
悠久の長い歴史や、他国との関係。さらには各国、名のある偉大な王についての授業が行われていた。
そして今は隣国、<吸血鬼の国>の説明が担当の教師によって展開されていたところだ。
「五大国・第五位のティーダ王が統べる<吸血鬼の国>では―――」
(あ…この話、アレスとのお勉強で何度か聞いたことがある…)
(永遠の夜の国…ヴァンパイアは皆、氷のような蒼い瞳で…でも、ヴァンパイアの王様だけは紅の瞳を持っているんだった…)
ぼんやりとそんな事を考えているアオイとは対照に、彼女の右側ではひとりの少年が食い入るように教師の言葉に耳を傾けていた。
(そういえばシュウって、歴史好きだよね)
クスリと笑ったアオイがこっそり彼の横顔を覗き見ていると…
『ん?…何笑ってんだよ』
彼女の視線に気が付いたシュウは、半ば照れ隠しのように口を尖らせて不満をもらした。
『ううん、ただ…シュウはいつも歴史の時間、一生懸命話聞いてるなって思って』
『…別に歴史が好きってわけじゃねぇよ』
意外な彼の言葉にアオイは目を丸くして驚いた。
『そうなの?私てっきり…』
『…歴代の王たちの話が好きなだけだ』
『歴代の王様?』
『ああ。自分の体が人とは違うとかさ、そういう事でウジウジしてねぇで…常に胸張って生きてる姿とか、すげぇかっこいいって思う』
(人とは違う…力も、命も…)
誰もが憧れる若く、美しい容姿に…数百年を生きる各国の王たち。
しかし…当人たちはどうだろう。
(…お父様も孤独を感じた時期があったと…誰かに固執するのが怖かったと言っていたわ…)
アオイの場合、身近にキュリオという<悠久の王>がいるため…少なからずその心内を耳にし、共に感じているつもりだ。
それゆえ、ただ手離しで彼らの栄光を褒め称える気にはなれないのだ。
それぞれの葛藤や苦悩の中、一言では語りつくせぬ想いが…どれほどの時を彷徨ったのだろう。
王であるがゆえに弱音を吐くことも許されず、乱世の中…戦いに身を置くしかなかった王もいたに違いない。
『……』
急に黙ってしまったアオイを心配するようにシュウが声をかける。
『アオイ、もしかして傷が痛むのか?』
『…え?あ、違うの…そうじゃなくて…』
と言葉を続けようとすると…
『…アオイさんは優しい方ですからね。
歴代の王を想い、シュウ君のように…浅はかな言葉など口に出来ずにいたのでしょう』
もっともらしく教科書を片手にもち、優しくアオイの肩に手をのせた自称・アラン。
いつの間にか副担任という名目まで掲げた彼は、こうして毎時間この教室に身を置いているのだ。
『なんだよアラン。妙に突っかかってくるじゃねぇか』
シュウが怒るのも無理はない。
彼の言葉は"シュウが軽率な考えを口にしている"と言わんばかりの発言だったからだ。
『うわべだけにとらわれ、本質を見ようとしない。君たちのような人間ばかりだから…王は型に嵌(はま)るしかないのさ』