狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録
漆黒の男
「…何を遊んでいるセンスイ」
―――キィンッ
黒髪の青年はアランの神剣を受け止めた剣(つるぎ)に力を込めると、神剣ごと彼の体を押し返してきた。重なり合った二つの刃から火花が飛び散り、剣圧が背後にいるアオイの元まで達しようとした時―――
「きゃぁっ!」
「アオイッ!!」
「…っ!!アオイさんっ!!!」
「はぁっ!!」
咄嗟に後方に飛んだアランは彼女の前に立ちはだかると、神剣へと力を集中させ、剣圧を弾き返した。
(今…センスイ先生の声が…)
わずかな期待を込め、彼の姿を探していると…
「アオイ、怪我はないかっ!」
息をはずませたアランが心配そうにこちらを振り返った。
「は、はい…っ!」
すると…警戒するアランを余所に、アオイの名を叫んだ時とは考えられないほどに呑気なセンスイの声が響いた。
「助かりました、クジョウ」
ゆっくり剣を下ろした黒髪の青年に笑いかけた彼は、相変わらず余裕な笑みを浮かべたままだ。そしてその眼差しをこちらへ向けると…
「ご紹介いたしますね。私の隣りにおります彼の名はクジョウ。そしてこちら悠久の王・キュリオ殿と、アオイ姫です」
「……」
黒髪の青年は一瞬、切れ長の紫水晶(アメジスト)色の瞳をこちらへ向け…眉間に深い皺を寄せた。
「…平和な国でのうのうと生きる王と姫…か…」
不機嫌そうな彼の言葉にアランは口を開いた。
「紹介いただいて何だが…君たちと仲良くする通りはこちらにはない」
(そんなっ…お父様…)
アランの言葉に心が痛み、表情を曇らせるアオイ。
するとゆっくり構え直すアランの瞳が鋭く細められ、握りしめられた神剣からは眩い光の粒子がほとばしる。
「…仲良くせずとも結構。貴様らなど取るに足らぬ存在…」
嘲笑うかのようにスラリと剣の身を起こした黒髪の青年だが、声を上げたセンスイが一歩進み出た。
「あ…待ってくださいクジョウ、私はアオイさんと仲良くなりたいんです」
「センスイ先生…」
険悪なムード漂う中、センスイの言葉にぱっと笑顔を取り戻したアオイ。
しかし…
「…お前にはもっと大切な者があるのではないか…」
「…それは…」
「……」
黒髪の青年の言葉に、急に黙ってしまったセンスイ。チラリと見えたその悲痛な面持ちがアオイの胸を激しく掻き立てる。
それが彼にとってどれほど重要なものか逆に思い知ってしまう事となるのだった―――