狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録
悲しい気遣い
「いましたわっ!アラン先生っ!!私たちを送って行って下さらないの!?もうとっくに日は沈んでいるんですのよっ!」
「まったく…汚らわしい女たちだ…」
アランの金で食事やワインを堪能していたであろう女たちの唇の端はオイルにまみれ、欲望をギラつかせた肉食獣のように醜かった。
しかし、彼の声が聞こえていないらしい彼女たちは形振(なりふ)り構わず腕にすがりついてくる。
「わたくし…酔ってしまいましたわ…」
頬を赤らめ、安っぽい色気を振りまく女教師にため息をつくアラン。
するとシュウは…
「父子家庭だってアオイがいうから心配してたけどよ…あんたにはこっちのほうが似合ってるぜ。娘に付きまとう父親なんて、どう考えたって異常だろ」
「…父親?私がかい?」
「あ?…何笑ってんだよ…」
鼻で笑うように言葉を発したアランに違和感を感じたシュウは怪訝な表情を見せている。
と、その時―――
「…?あれは…」
センスイに抱かれたまま移動していたアオイはその真上を通過していたのだった―――
「…アオイさん?」
アオイが下を覗き込むように顔を動かしているのに気付いたセンスイ。
「おや…お父上は意中の女性と逢瀬の最中のようですね」
わざとらしく笑ったセンスイの言葉にはアオイからアランを遠ざけようとする棘が含まれていた。
「……」
(意中の女性…。お父様の腕に女の人…初めて見た…)
(今日に限って帰りが遅かったのはそういう事だったんだ…)
彼の顔色までは見えなかったが、艶やかな銀髪に品のある出で立ちは見紛うことなくキュリオのものだった。
「そうかもしれません。お父様はずっと私にかかりきりだったから…遠慮して、他の女性との交流をあえて避けていたんだと思います」
思いがけない言葉を口にしたアオイ。センスイは二人の仲をもとより親子以上のものではないかと疑ってはいたが…
「…戻りますか?」
笑みを止め、真剣なまなざしを向けたセンスイにアオイは首を横に振る。
「…いいんです。お父様をもう少し自由にしてあげなくては、と思っていたところなので…」
そう寂しそうに微笑んだアオイにセンスイはゆっくり瞳を閉じて呟いた。
「…そうですか…」
それから間もなく、どこへ向かっているのだろうと思っていたアオイだが、思わぬところへと到着したのだった。
「ここって…」