【短】壁ドン シミュレーション
「ちょっとだけちょうだい、水」
「自分で入れてこい」
「…」
…私だって、喉が渇いてるのに。
彼は目の前でごくごく飲んでしまう。
――もう、ケチね!
ちょっとだけって言ってるのに!
あまりにも懐が狭い男に呆れるので、再び雑誌に戻る。
なにを見ていたっけ…ええと、そうだ。壁ドン。
…壁ドン特集に再度集中しようとするが、なぜか集中できない。
しょうしようと思えば思うほど、視点が一致していない。
明らかに私が怒っていたからか、彼が隣でピタリと静止している。
…まさかとは思うけど、反省してる…?
いやでも、まさか綾が反省するわけがない。
「…俺ら、20年以上一緒にいるよな」
「…え?」
なに、突然。
思い出話など、一度も彼の口から聞いたことはない。
しかも静止していた理由は、そのことを考えていたからなの?