【短】壁ドン シミュレーション




「ちょっとだけちょうだい、水」


「自分で入れてこい」


「…」



…私だって、喉が渇いてるのに。


彼は目の前でごくごく飲んでしまう。



――もう、ケチね!


ちょっとだけって言ってるのに!




あまりにも懐が狭い男に呆れるので、再び雑誌に戻る。


なにを見ていたっけ…ええと、そうだ。壁ドン。



…壁ドン特集に再度集中しようとするが、なぜか集中できない。


しょうしようと思えば思うほど、視点が一致していない。



明らかに私が怒っていたからか、彼が隣でピタリと静止している。



…まさかとは思うけど、反省してる…?


いやでも、まさか綾が反省するわけがない。





「…俺ら、20年以上一緒にいるよな」


「…え?」



なに、突然。


思い出話など、一度も彼の口から聞いたことはない。



しかも静止していた理由は、そのことを考えていたからなの?



< 5 / 11 >

この作品をシェア

pagetop