【短】壁ドン シミュレーション
温度が上昇する。
鼓動が高鳴る。
彼の瞳は真剣そのもので、揺らぐことなく。
私を真っ直ぐに見つめ、
貫いた。
「……あの、本当に、今さらね」
言葉が見つからなくて、顔を背けてそんなことを言う。
だって今更付き合うって、もうどこかの夫婦以上の時間をともに付き合ってきた。
今更わざわざ、付き合うだなんて言葉は、なんだか変。
「紗奈は?」
…でも。
彼は確信犯だった。私の瞳を今度は、面白げに見つめていて。
試されているようだった。
「……好き、だけど?」
「だけど?」
幼馴染に、こうも無理やり意識を持っていかれると、ドキドキせざるを得ない。
彼のこれまでの素っ気ない態度は、まさか、ツンデレの“ツン”というやつ?
…なんだか可愛く見えてきた。