涎が出るほど抱き締めて
「…え?」
この寂れた部屋に似つかわしくない間の抜けた声に、急いで振り返る。
ベランダの窓が開いていて、そこに腰かけている人が声の主だった。
「なっ…」
「え!?まだ若いじゃん!」
腰かけている人物に驚き、ガタンと椅子から転落。
幸い背中からいったから痛くはない。
「あなた、ここ4階で…」
ベランダに腰かけているやつは、土足で部屋に入り込んできた。
真っ黒の髪に、整った顔。
かなりの美男子で、町を歩けば10人中10人が振り返るくらい。
格好はリンカーングリーンのセーター。
テレビから出てきたような華やかなオーラをまとっていた。
「はい」
見惚れていると、掌に握らされた。
――ナイフを。
「…え」
銀色の掌サイズのそれは、蔦のような装飾を施している豪華なものだ。
博物館とかにありそうな歴史を感じる。
…が。
なぜ彼は今これを渡してきたのだろう。