涎が出るほど抱き締めて

「おねーさん♪コーヒーでいい?」


ガチャンと勝手に入ってきた彼。

…鍵、かけとけばよかったな。

そうすれば入ってこなかっただろうに。

今更な思考に辟易しつつ、入ってきた彼を見る。


缶コーヒーをひとつだけ買ってきていた。


「…あ、の…あなたのぶんは?」

「え?俺?いらないいらない、おねーさん食うし」

「…は?」

な、何をしれっと言ってるのこいつは。

今夜は寝かせないぜハニーとかそんな感じのやつ…だよね?


「…まあいいけど」


さっきは貞操の危機だとか攪乱した頭で思ったけど、実際はどうでもいいんだ。

だって、処女じゃないもの。

いまいち実感が沸かなくて、もらったコーヒーを開けた。


「コップかなにかないの?」

「…ない」


なんにもない部屋であるわけないじゃないか。

椅子が一つと絨毯、それに割られた写真たてやお皿とか。


それらが辛うじてある程度。


大して驚かないこいつは神経太いんだろうなあ
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