涎が出るほど抱き締めて
ポム、と頭を撫でられる。
無言で、暖かい大きな手で。
「…ん」
「コーヒーじゃないのにすればよかったねー」
「や、あの」
なんで頭を撫でてるの?
「髪綺麗だねー、親譲り?」
「え…まあお母さんに似てるってよく言われます」
「そっかー晴(ハル)ちゃんはお母さんっ子だもんねー」
――朝野晴(アサノハル)
まごうことなき私の名前だ。
『どんなときでも、この子の笑顔が晴れるように』
そう願ってつけてくれた名前。
問題なのは、今彼がそれを知っているということ。
ついでに――私のお母さんっ子ぶりも。
彼の今の一言で、全てが変わる。
な、に…
なんなのこの人…
「…な、…あ、なた…」
「俺?
さっき身分証明渡したじゃーん…
まあいいや」
ぎゅ、と抱き締められる。
コクのある、知らない香りと温もり。
なすすべもなく、ただ戸惑うしかなかった。
「俺は朽木夜臣――屍食鬼だよ?」
「さっきも言っていたけど、なにそれ…?」